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高松高等裁判所 昭和40年(う)253号 判決 1967年2月14日

被告人 八木建設工業株式会社 外一名

主文

原判決を破棄する。

被告人八木建設工業株式会社及び被告人八木実を各罰金五千円に処する。

被告人八木実が右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

当審における訴訟費用は被告人八木建設工業株式会社及び被告人八木実の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、記録に編綴してある高松高等検察庁検察官菅原次磨提出の松山地方検察庁西条支部検察官事務取扱検事島岡寛三作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は、「被告人八木建設工業株式会社は新居浜市甲一四二五番地において電気工事請負業を営むもの、被告人八木実は、被告会社の専務取締役であるところ、被告人八木実は被告会社の業務に関し、昭和三七年九月二二日午後三時過頃同市甲一五四四番地所在住友化学工業株式会社大江製造所構内に建在する住友共同電力株式会社の御代島東線六号鉄塔に支持された大江一号線の碍子手拭掃除作業を労働者青野忠一等をして行わせるに際し、その指揮監督をしたものであるが、同鉄塔に共架の特別高圧六万六千ボルトの活線に近接する作業であるに拘らず作業用器具又は活線作業用装置を使用させなかつたものである」との労働基準法四二条、労働安全衛生規則一二七条の四違反の本件公訴事実につき、原判決が本件作業は労働安全衛生規則(以下規則と略称する)一二七条の四所定の作業に該当せず、被告人等に労働基準法四二条違反の事実はないとして無罪を言い渡したのは、事実を誤認したか、法令の解釈、適用を誤つたもので、破棄を免れないというのである。

先ず、原判決が本件作業の対象となつた大江一号線の碍子は規則一二七条の四にいう「当該電路の支持物」に該当しないと認定しているのは、同規定の解釈適用を誤つたものであるとの主張について考察する。

原審で取調べた労働基準監督官作成の実況見分調書、中野内玉壮の労働基準監督官に対する供述調書並びに当審における検証の結果によると、御代島東線六号鉄塔には大江一号線、同二号線、御代島東一号線、同二号線の四回線が共架され、一回線は各三本の送電線より成り、各送電線はいずれも公称電圧六万ボルト(送電電圧六万六千ボルト)の特別高圧線であること、各送電線は鉄塔から地上に平行に出ているアームによつて支持され、アームと送電線の露出充電部分とは碍子によつて絶縁され、各送電線を支持するアームはそれぞれ別個独立に鉄塔から出ており、一アームは一送電線のみを支持していること、御代島東一号線と大江一号線とは鉄塔の同一側に架設され、前者が上部、後者が下部に位置し、各回線とも三本の送電線より成るから、三本のアームで支持され、上方から一番アーム、二番アーム、三番アームと呼称されていること、本件作業は被告会社の労働者青野忠一が大江一号線一番アームの碍子の手拭掃除作業をしようとしたのであるが、その際大江一号線と御代島東二号線が死線(停電)、御代島東一号線と大江二号線が活線(充電)であつたこと、被告人八木実は右作業に際し、青野忠一に活線作業用装置も活線作業用器具も使用させず、同人が大江一号線一番アームの碍子のところへ行こうとして、御代島東一号線三番アームで支持された送電線のジヤンパー(碍子と碍子との間を結ぶ送電線)に接近し過ぎ、感電して死亡したことが認められる。そして原判決は規則一二七条の四が活線作業用装置又は活線作業用器具を労働者に使用させるように命じているのは、特別高圧の電路の露出充電部分又は当該電路の支持物の修理、塗装等の電気工事作業を行わせる場合であつて、右の当該電路の支持物とは、その文理から考えても充電電路即ち活線の支持物のみをいうものであり、右の規定は特別高圧の活線に近接するすべての電気工事作業についてではなく、そのうち当該活線の支持物の修理、塗装等の活線近接作業を行なう場合のみを規制したものと解すべきである。従つて青野忠一が手拭掃除作業をしようとした碍子は停電中の電路即ち死線を支持する碍子であり、ただその上方にこれとは全く別のアーム及び碍子によつて支持された御代島東一号線の活線ジヤンパーが垂れ下つていたに過ぎないから、右青野忠一の作業は規則一二七条の四の作業には該当しないと判示している。しかし、規則一二七条の四の特別高圧の電路の露出充電部分又は当該電路の支持物というのは、文理上から右当該電路とは特別高圧の充電電路(活線)のみを意味しているものとは直ちに判定し得ないのみならず、高圧の電路の露出充電部分(活線)の取扱作業を規定した規則一二七条及び高圧の電路の活線近接作業について規定している規則一二七条の二と対比して考察すると、右の規則一二七条の二にいう電路の支持物というのは活線及び死線の支持物の両者を包含していると解すべきであるから、特別高圧の活線取扱作業及び活線近接作業について規定している規則一二七条の四にいう当該電路には、活線のみならず死線も含まれているものと解するのが相当である。また同規定に当該電路の支持物のうち、接近することにより感電の危害を生ずるおそれがある部分に限るとしているところの、右の感電とは作業対象の支持する活線による感電のみならず、その他の近接する活線による感電をも意味しているものというべきであつて、そのように解することが特別高圧の活線に近接する電気工事作業における感電防護措置を定めた右規定の趣旨にも合致するものであること、当審証人清水一夫の供述によれば、特別高圧の死線の碍子の掃除作業の際に、近接する活線に感電する災害の発生率が高いので、規則一二七条の四は、その防護措置を講じさせることを意図しているものであることが認められること等を綜合考察すると、右の当該電路というのは活線のみならず死線をも包含しているというべきである。

なお、当該電路の支持物が、原判示の如く活線の支持物のみをいうものとしても、本件大江一号線一番アームの碍子は、右の当該電路の支持物に該当すると解される。即ち、電路の支持物とは、その電路を直接に支持している碍子及びアームのみをいうのではなく、間接的に電路を支持している鉄塔をも含み、広く電路を支持することを目的としているもの一般をいうものと解するのが相当であり、本件の場合の如き共架の鉄塔においては、各電路の碍子及びアームは、それぞれの電線を各別に支持するものではあるが、各碍子及びアームはいずれも同一の鉄塔により支持されていて一体として支持物を構成しているものというべきである。

従つて右のように各電線の支持物が現実に一体をなしている場合は、右電線の一部のものが死線であつても他に活線があれば、死線を直接に支持している碍子及びアームも、それを全体としてみる場合は活線の支持物を構成しているものと解すべきである。

およそ共架鉄塔における各電路の支持物に関する作業は、感電による危害発生の危険性において密接な関係を有し、一部の死線の碍子あるいはアームの作業であつても、それが活線に近接する限り、活線の碍子あるいはアームの作業と感電の危険性において差異がないことに想到すれば、特別高圧の活線作業及び右活線に近接する電気工事作業における感電防護措置の規定である規則一二七条の四の解釈、適用においては、支持物の範疇を右の如く解するのが相当である。

次に、規則一二七条の四は特別高圧の電路の支持物の電気工事作業のうち、作業のため接近することにより感電の危害を生ずるおそれがある支持物の作業にその範囲を限定して、規制の対象としているのであるが、原判決が本件作業は同条に規定する右の作業に該当しないものと解していることにつき、論旨は事実を誤認したか、法令の解釈、適用を誤つた違法があると主張するので、この点について考察する。

原審で取調べた労働基準監督官作成の実況見分調書、被告人八木実の労働基準監督官並びに検察官に対する各供述調書、及び当審における検証の結果を綜合すると、御代島東一号線三番アームと大江一号線一番アームとの距離は三米であるが、御代島東一号線三番アームで支持された送電線のジヤンパーが垂れ下つていて、右ジヤンパー最下端と大江一号線一番アームとの距離は一・六米また右一番アームの碍子と右ジヤンパー最下端との距離も約一・六米であること、本件の碍子手拭掃除作業は、右一番アームを通つてアーム先端に取りつけられた碍子のところへ行き、その上にまたがり、布切れで碍子を手拭きする作業であること、アーム先端に行くまでの間に高さ約九〇糎、幅約一米の中間固定枠があることが認められ、また押収してある架空電線作業時の安全距離についてと題する書面(証一号)、労働福祉一九六二年八月号(証三号)、電気の安全管理と題する書面(証四号)及び当審証人清水一夫の供述によると、公称電圧六万ボルトの特別高圧線作業時の活線接近による危険限界距離は大体七五糎と解する取扱いになつていることが認められる。ところで、原判決は、大体作業の場合アーム上を這つて中間固定枠をくぐり、そのままの姿勢でアーム先端に到達し、アームの上にまたがつて作業を行なう限りでは、七五糎の危険限界距離内に作業員の身体又は使用器具が入るおそれはないものと考えられ、従つて感電による危害発生のおそれもなくかつ中間固定枠の広さから考えるとその下をくぐるという動作は比較的容易であり、当然の動作である。従つて感電による危害発生のおそれのあるのは作業員が右のような安全な作業要領を無視した場合のことであるとして、本件作業は接近することにより感電の危害を生ずるおそれがある支持物の作業に該当しないと認めているものと解されるところ、本件大江一号線一番アームの手拭掃除作業の対象である碍子及びその作業のために通らねばならない右一番アームから、その上方の活線ジヤンパーまでの距離は一・六米に過ぎないことは前示認定のとおりであるから、普通の成人が立つた場合は、右活線ジヤンパーに接触する高さになるものであり、また右活線に接近する場合の危険限界距離は前示認定の如く七五糎とすると、その下方における作業員の行動し得る安全圏は高さ八五糎という狭隘な範囲に限定されること、そして作業員の不注意もしくは本能的動作によりその身体等が安全圏外に出ることも絶無とはいえないこと、同所は地上約一八・四米の高所であつて、かかる場所で原判示の如く中間固定枠を這つてくぐる動作が比較的容易で当然の動作であり、そのままの姿勢でアーム先端に到達することが容易であると認めることは直ちに是認しがたく、アーム上を通つて中間固定枠を経てアームの先端に行くまでの間に作業員が過つて姿勢を高くし、右の危険限界距離内に身体や所持する器具を入れるおそれは十分あり得るものと認められること、規則一二七条の四に規定されている感電の危害を生ずるおそれがあるというのは、危害防止措置の基準として作業員の不注意もしくは過誤によつて危害が発生する場合も考慮に入れて規定されているものと解されること等を綜合して考察すると、本件作業は規則一二七条の四にいう接近することにより感電の危害を生ずるおそれがある支持物の電気工事作業に該当するものと判定せざるを得ない。

よつて、本件作業は規則一二七条の四の電気工事作業に該当し、従業員に活線作業用装置又は活線作業用器具を使用させるべきものであつたと認めるのが相当である。

従つて、原判決は所論の如く、法令の解釈適用を誤つたものというべきであるから、論旨は理由がある。

よつて、刑訴法三九七条、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所において直ちに自判する。

(罪となるべき事実)

論旨冒頭の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人八木実に対しては労働基準法四二条、一一九条一号、労働安全衛生規則一二七条の四、罰金等臨時措置法二条を適用し、所定刑中罰金刑を選択してその所定金額の範囲内で同被告人を罰金五千円に処し、被告会社に対しては右各法条の外労働基準法一二一条一項を適用して、同被告会社を罰金五千円に処し、被告人八木実が右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金五百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文により被告人八木実及び被告会社の負担とする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 横江文幹 東民夫 梨岡輝彦)

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